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ここは「スライムの二度目の終わり」の場所です。
一度目の終わりは↓こちらです。覚えてない方は、先に目を通しておくといいかもしれません。
http://suraimu.game-ss.com/Entry/3/
では、「つづきはこちら。」から、どうぞ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
火照ったほほを、ひんやりした大気が掠め撫でていく。
夏の終わりだというのに日差しは強く、日なたでは肌が焼けるように痛む。
新緑の木陰を渡りながら、アタシは近くの泉を目指していた。
透明な二対の羽を震わせ、蜘蛛の巣をかいくぐって進んでいく。
やがて木々が途絶え、その一角だけ広場のように開けた場所に出た。
そこの中心には、大きさ十メートルほどの清冽とした泉がある。
「はぁ~、やっと着いたよ。暑いのも困るけど、じめっとしてると飛びにくくてヤダなぁ」
アタシは泉のふちに腰を掛け、素足を水に浸した。
「ッ! 気持ちいい~♪ ちょっと遠いけど、やっぱりここが一番いいわね~」
絶え間なくこんこんと湧き出る清水はキンと冷えており、その冷たさはここまで飛んできた苦労も忘れさせる。
いつもは友達のフェアリーの子が何人か来ているのだが、今は辺りに人影はなく、自分が一番乗りだったようだ。
「・・・・・・」
ちゃぷちゃぷと足で水を弄びながら、みんなが来るのを待つことにした。
辺りは静かで、遠くからやかましい虫の声が微かに響いていた。
「もうあれから三ヵ月、か・・・」
一人になると、いつも思い出してしまう。
それはあの島での出来事。三匹でのハラハラした冒険、みんなとの酒場での談笑。
そして――スライムとの別れ。
目の前で消えていく彼を見ていることしかできなかった、無力な自分。
あの時からぽっかりと、心に穴が空いているようだった。
「ダメだな、アタシ・・・らしくないよね」
フェアリーは自然から生まれた、自由を宗とする風の化身。
何物にも囚われず、何物にも縛られず、自由気ままに生きているのがフェアリーだ。
その日その日を楽しく生きられればそれでいい、単純な生き方。
アタシもそうだったはずだ、スライムに召喚されるまでは。
あれ以来、自分でも気付かぬうちにアタシは変わってしまっていたらしい。
「あ~あ、早くみんな来ないかな~・・・ん?」
答えの出ない思考を止め、後ろにパタッと倒れこんだアタシの視界に何かが映った。
“それ”は木々の隙間から見える白い雲と蒼い空の一角にある、黒い点のようなもの。
初めは点でしかなかったそれはだんだんと大きくなり・・・というか、何かすごい勢いで落ちてきている!?
バッシャァーーンッ!!!
「きゃあぁ~!?」
体を起こす間こそあれ、逃げる間もなく、“それ”は真っ直ぐ泉に突き刺さり、盛大に水しぶきを巻き上げた。
しぶきは木のてっぺんに届くほどまで跳ね上がり、いかに勢いある物体が飛び込んできたかを思わせる。
「もう~! いったい何なのよ~!!」
ぐっしょりと濡れた髪を分けながら、ルリは叫んだ。
やがて舞い散った雫は地に落ち、泉の波紋も消え、静けさだけが残る。
ふいに、水面にプカリと浮かび上がるものがあった。
「!? あ・・・あっ・・・」
それは丸かった。それは水色だった。それは、一つ目ぎょろりとしていた。
「まさか・・・なんで・・・?」
それはルリの記憶にあるものと同じだった、それは忘れられない大切な存在。
「ご主人さま~~!!」
それはスライムだった。
榊の魔力によってスライムはルリの元に転移させられたのだった。
何故地表付近ではなく超上空に出現したかだが・・・まあそれは、お約束である。
ルリは泉から上がってきたスライムめがけて、タックルのように飛びつく。
「逢いたかったです・・・ご主人さまが消えちゃって、悲しかったですぅ・・・ううっ」
ゼリーのように柔らかな身体に顔を埋め、子供のように泣きじゃくっていた。
ルリはスライムと心で通じ合っているので、喋らなくても何を思っているのか判ります。
ここからは、スライムは喋れないけど、喋っているように表現します。
※あくまで翻訳であり、実際の口調とは違う場合があります。
「ごめんね、ルリ。ボクはずっと自分のことしか考えてなかったよ」
スライムは触手を伸ばして、優しくルリの頭を撫でている。
「ボクが消えることで、悲しむ人がいる。そんな当たり前のことに気付けなかった。
それは驚きと共に・・・嬉しさでもあるんだ。
まさか造られたモノであるボクのような存在でも、そう思ってもらえる存在へとなれたことがね」
「そうですよ・・・ぐすっ。自分を軽視なんてしないで、ください。
消えていい人なんていません・・・居なくなっていい人なんて、居ないんですからっ」
「うん、ありがとうルリ。・・・そうそう。あとね、大切なことを思い出したんだ」
「え? 大切なこと、ですか?」
「そう、ボクたちがやっていた酒場での、ラストオーダーを、さ」
それは一人の少年からの、最後の『注文』。
応じることはできないと思っていたけど、
今やっと、届けることができるよ。
『……いいだろう、マスター。 …そのミッション、全力で受けよう。』
『……その代わり、戻ったらひとつ、『注文』を受けてもらう。』
『……注文は、『ハッピーエンド』、だ。』
――THE HAPPY END――