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No.1030だった時、最終結果からHPにリンクを張って、そこにエピローグを載せていたのですが、そのHPがスライムの最後のごとく消滅してしまったので、ここにその時の文章を載せておきます。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
雲一つない青空が広がっていた。
つい数日前まで吹いていた冷たい風も、暖かな日差しによってゆるみをみせている。
草は萌え、木々は色立ち、華は濃密な香りを振りまいている。
季節は春。
始まりの、そして終わりの季節。
ルリと親分は大きな椚の樹がそびえる丘にいた。
ここは島全体を一望できる、静かな場所。
木の根元には、たくさんの色とりどりの花が山のように置いてあった。
「・・・・・・」
「これくらいでいいだろ。これだけありゃ、相棒だって十分だって言うだろうよ」
ここはスライムの墓。
と言っても、スライムの遺体が眠っている訳ではない。
スライムは生物ではなく、造られた存在、魔法生物。
その活動を止める時には痕跡など一つも残さずに消滅するのだ。
だがここでスライムは消滅した。
ならば、この樹を墓標代わりにしてもよいだろう。
ルリはフェアリーの風習に従って、華で飾る。
その魂に安らぎがあるようにと。
「さて・・・嬢ちゃん、これからどうするつもりだい?」
「アタシは自分の世界に還ります。もう・・・ここに居る理由がなくなっちゃたから。
・・・親分さんはどうするんですか?」
「オレは『遺跡に棲む者』だ。また遺跡の中に戻って、今まで通り過ごす・・・つもりだったんだよな」
「つもりだった?」
「相棒のヤロウ、オレに黙って他の冒険者に頼んでたらしいぜ。
『ボクが居なくなったら、ボクの大切な仲間の歩行雑草をよろしくお願いします』ってな」
見ると、丘に下に人間の少女がいた。
優しげなまなざしの紫の服を着た少女は、離れた場所から近付かずこちらを見ている。
「へっ、自分に余裕がないくせして、そんなところに気を回しやがってよ・・・。
つーわけでオレはそろそろ行くぜ」
「あ、はい。・・・また、会えますよね?」
「ああ。また嬢ちゃんがこの島に来ることがあれば、必ず会いに行くぜ。
それじゃあ、体に気をつけるんだぜ。アバヨッ!!」
歩行雑草は丘を下り、少女と共に歩き出した。
新たな道を、進み始めたのだった。
一人残されたフェアリーの少女。
召喚主であるスライムが居なくなった今、いつ送還されても不思議ではない。
耳元をなでる柔らかい風と、遠くの波音だけが響いていた。
少女は樹に向かいなおす。
じっと見つめるその目は潤んでいたが、ゴシゴシと手の甲で拭い取る。
「・・・ご主人さま。
アタシ、ここに来れて良かったです。
ご主人さまに出会えて、良かったです。
今は還りますけど、きっと、必ず、ここに戻ってきます。
どうしてかって聞かれると、困っちゃいますけど。
・・・・・・。
ご主人さま。
さようなら、そして・・・。
またね」
――THE END―